新たな花が咲くまでに

 彼は自分がどんな夢を見たのか、後になってぽつりと漏らしてくれた。
 失われた故郷での生活。有り得なかった親との確執。
 途切れがちな言葉の端々に自嘲と悲哀が滲んで見えて、改めてあの奇怪な植物と、それを利用した異星人に嫌悪を感じた。
 そして、君はどんな夢を見たのかと、深く問われない事に安堵した。
 私の過去を知っている彼ならば、問わずともある程度は検討が付いたのだろう。彼がどんな夢を見たのか、私が薄々感じていたように。

 だけど彼は知らない。

 かの強盗が父に撃退されてからの私の夢を。
 命を絶たれたキャシーと結婚し、家庭を育んだ以上の事を。
 私が矢張りバットマンであった事を。
 そしてゴッサムの暗闇で戦っていた際、彼と出会った事を。

 彼の夢に私の姿は無い。
 だが私の夢に彼の姿はあった。

 夢の中でクリプトンがどうなったのか。それを知らぬまま植物の夢から覚めたが、もし現実と同じように崩壊していたらと思うと――顔から火が出そうだった。
 きっと彼の夢では、私は彼のあずかり知らぬ所で、それでも両親と共に暮らしていた事だろう。彼ならばそう望んだ筈だ。
 だけど私の夢では、彼は今と同じ姿で空を飛んでいた。

 クリプトンが残っていれば、決して訪れなかっただろう姿で。

 私は彼の幸せを望んでいるのではなかったか?
 変貌した彼の運命よりも、自分の満足を選ぶような男だったのか?
 ひどく恥ずかしかった。
 自分の身勝手さと、彼の夢に出なかった事へ僅かな落胆を感じている事に、打ちのめされる思いだった。

 そして今、くしゃくしゃに潰れた薔薇を持って、再生は無理だったけれど種の採取には成功したと彼は笑う。花が咲いたら見せようと言う。
 種が芽生え、育ち、やがて花を付けるまで。
 それまでに彼の笑顔を直視出来るようになるのか。
 自身も勝算も無いまま、私は彼に、楽しみにしていると笑って頷いた。

しかし親父さんとの対立や従姉妹の怪我など、結構夢世界でもシビアですよね。
GLでは理想世界を見せてくれていたけど、意外と奥が深いぜ謎の植物。
というか超人の持っている『父親』に対する根が深いのでしょうか。
「強いお父さんが守ってくれる」な蝙蝠よりも精神的には大人・複雑なんでしょうね。

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